今回の記事では、人気が高まりつつある高配当投資で気を付けるべき投資先の減配について、過去の減配した事例の財務状況からそのサインを見つけ出し、回避する方向をお話します。
この記事を読むことで
減配のサイン(兆候)を理解することで、高配当株に投資する前にチェックし、うっかり減配になる可能性が高い銘柄への投資を回避する
ことができるようになります。
自己紹介
ブログ運営者のYYです。記事をご覧いただきありがとうございます。
米国個別株やインデックスの長期投資を中心に運用しています。会計士の知識を生かした個別株の銘柄分析や、自身の失敗を踏まえた長期投資での気づなど、役立つ情報をブログにまとめていますので、よろしければご覧になってください。
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グロース株からバリュー、高配当株へ
FRBの金融引締めが2022年から本格的に始まり、GAFAMなどのグロース株が大きく落ち込む中、ここ最近は安定したキャッシュインが見込める高配当銘柄の人気が高まっています。
私自身は、高配当を目当てにしているわけでは無いのですが、昨年から不景気に強いと言われる生活必需品やヘルスケアなどのディフェンシブ銘柄も取り入れ、結果的に配当利回りが高めの銘柄も、ポートフォリオの中で割と大きな割合を占めてくるようになりました。
米国株投資の雑誌やメディアなどでも、よく高配当銘柄特集が組まれていますが、5%以上の高利回り銘柄や50年以上連続増配している銘柄など、色々な銘柄があって目移りしますよね。
(東洋経済オンライン「米国会社四季報 「高配当銘柄」ランキングTOP50」より)
高配当銘柄は減配リスクに注意
一方で、高配当銘柄に投資する際に気を付けなければならないと言われているのが、配当利回りが高過ぎて、後々減配が発生するリスクです。
で計算されますが、その配当利回りが他の銘柄と比較して相対的に高い理由として、
① 成長投資の残余分を株主に配当として還元するケース
(株価に対して配当が大きい)
② ビジネスに何らかの将来懸念があり、株価が低迷するケース
(配当に対して株価が低い)
という二つの理由が考えられます。
前者は、成熟産業にある企業にはよく見られるため、それほど問題にはなりません。
一方で、後者は株価がさらに下落した場合、表面上の配当利回りが良くなったように見えるため、ここぞとばかりに資金を突っ込んでしまいがちです。
その後、業績が回復すればよいのですが、最悪の場合、ビジネスが立ち行かなくなり株価が大きく下落、狙っていた高配当も大幅減配というダブルパンチになってしまうこともあり得ます。
そのため、高配当投資では、企業の業績に注意が必要とよく言われます。
とはいえ、業績のどの点を確認したらよいのか、具体的な点に踏み込んだ意見はインターネットなどではなかなか見つけられません。
そこが、今回の記事を書こうと考えた動機でもあります。
ここ最近で減配した高配当銘柄
こういったビジネスの不振を受けて大幅減配した実例として、2023年2月、ダウ工業株30種平均に組み込まれている世界最大級の半導体メーカーのインテルが、配当をこれまでから約2/3減らし年間0.50ドルにすることを発表しました。
インテルは、先ほど出てきた米国会社四季報の「米国株予想配当利回りランキング TOP50(2022年)」の23位に入っており、この時点での利回りは4.73%を誇っていました。
ところが、インテルは本丸である半導体市場でAMDなどの競合チップメーカーにシェアを奪われた結果、売上・純利益が前年比で大幅に減少し、あえなく減配に踏み切ることになったのです。
インテルは有名企業だから、配当もちゃんともらえるはずだよね、と考えて投資していた人も多いと思いますが、まさに業績を確認しなければいけなかった例といえます。
では、実際に業績をどう確認すればよいのか、今回は過去に実際に減配したいくつかの事例について、減配に至るまでの財務状況を分析して、減配になるサインが無かったかを確認します。
高配当銘柄を選ぶ際、或いは減配になる前に他の銘柄に乗り換えるための参考になればと考えています。
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実例から学ぶ減配のサイン
では、早速本題に入りましょう。
減配の可能性を示すサイン(今回の結論)
まず、減配の可能性を示すサインについて、結論から述べます。
- まず、売上や純利益などの業績が数年間にわたって落ち込んでいる、または急激に悪化している
- フリーキャッシュフロー(事業から生じた自由に使える資金)が前年から大きく落ち込んでいる
- 自社株買いを直前まで積極的に行っていたが、買付額を大きく減らした或いは自社株買いを止めた
過去の事例を見ると、財務状況がこれらのサインに当てはまるほど、近い将来に減配が生じる可能性が高いと考えられます。
実際に最近減配を実施した大型銘柄の3社について、減配前後の財務状況を見ていきましょう。
減配した事例 ー インテル(2023年2月減配)
先述した通り、2022年の大幅な業績悪化を受けて、インテルは2023年2月に2023年の配当を年間0.50ドル(前年1.46ドルの約1/3)に減額することを発表しました。
(Nasdaqホームページの各社配当履歴より)
① 売上、純利益は2022年に大幅に悪化
2021年までは売上、純利益ともに堅調に推移していましたが、2022年に売上がマイナス20%、純利益はマイナス60%と業績を大きく落としています。
(各社の10-K(年次報告)より)
② フリーキャッシュフローと自社株買いは2021年に大きく落ち込み
ここで、配当の支払い余地を考える際に重要な「フリー・キャッシュ・フロー」という概念について、おさらいしておきます。
i. フリー・キャッシュ・フローとは
配当の支払いが多過ぎないか、企業にとって重荷になっていないかを確認する指標としては、「配当性向(支払配当金÷当期純利益)」がよく使用されます。
確かに、当期純利益は決算開示で最も目立つところに載っているので取りやすく、配当性向は計算しやすい面はあるのですが、純利益はあくまでも会計上の数値であり、キャッシュを稼ぐ力や余力をより正確に把握したい場合、フリーキャッシュフロー(FCF)を使うことが多く、開示でも重要指標として挙げている米国企業も少なくありません。
- 事業活動から生じた現金収入から事業継続・拡大に必要な設備投資額(建物や機械設備の購入など)を差し引いた、自由に使える資金を表す。この資金の範囲内で株主への還元である配当支払いや自社株買いを検討することが多い
- 最も簡単な計算方法:
FCF = 営業活動によるキャッシュフロー - 設備投資額
ちなみに、インテルは調整後FCF(Adjusted free cash flow)という独自の修正を加えたキャッシュフローの指標を開示しています。
(インテルの2022年10-K(年次報告)より)
ii. インテルのフリーキャッシュフロー 過去10年間の推移
では、FCFと自社株買い、配当の過去10年間の推移を見てみましょう。
減配のきっかけとなった2022年の1年前、2021年にFCF(灰色のグラフ)が前年から激減しています。一方で、フリーキャッシュフローは、2021年には前年比で半分近くに減少しています。
また、これにより配当や自社株買いの原資が減ってしまった分は、自社株買い(青色のグラフ)を減らすことで対応しています(自社株買いと配当の間の優先順位は、株主が期待する増配を優先したためと思われる)。
(各社の10-K(年次報告)より)
ここから見えるのは、減配が発表される2023年や、そのきっかけとなる2022年決算よりも前に、FCFや自社株買いの大幅減少といった「減配に繋がるサイン」が出ている点です。
たしかに、台所が苦しくなれば出せるものも減ってくるのは直感的に理解できそうですが、もう少し他の事例も見てみましょう。
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減配した事例 ー ボーイング(2020年3月配当停止)
次にボーイングの事例を見てみましょう。
同社は2020年1Qまでは配当を継続していましたが、コロナ禍で航空機の需要低迷が見込まれることから、資金確保を優先し今後の配当を当面停止する旨を2020年3月に発表し、以降は再開していません。
(Nasdaqホームページの各社配当履歴より)
① コロナ禍で業績が2019年に落ち込み、最終赤字
2017年に売上は落ち込んだものの最終利益は増加、続く2018年は増収増益であったものの、コロナの影響で2019年は前年比約26%の減収、最終利益は一転赤字となりました。
② フリーキャッシュフローは2019年に一転マイナス
FCFに目を向けると、業績悪化と同タイミングの2019年に悪化し、それまで順調に増えていたFCFがマイナスに変わっていることが分かります。
同時に、自社株買いも大きく減らしているにも関わらず、配当は維持しています。
ここから、昨年並みの配当を維持していたとしても、業績やそこから派生するFCFの大幅悪化があった場合には、危険信号が出ていると言えそうです。
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減配した事例 ー AT&T(2022年2月減配)
最後の事例がAT&Tです。
同社は2022年2月に傘下のワーナーメディア分離とともに、事業資金を確保するために年間配当を1株当たり1.11ドルに減配することを発表しました。
(Nasdaqホームページの各社配当履歴より)
① 業績は不安定な状態が続き、2020年に悪化
AT&Tの場合は、急激に悪化したというよりも業績が不安定な状態がしばらく続き、2020年にマイナスの純利益を計上し、2021年は持ち直したものの、2022年に再度純利益がマイナスに落ち込んでいます。
② 2021年に自社株買いを大幅減
FCFについても、業績と同様に特に目立って大きな悪化に転じた時期はありません。
ただし、2020年からFCFが徐々に悪化する中で、2021年は積極的な自社株買いは断念しているように見えます。
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減配のサインを示している銘柄
こうした点を踏まえて、現在こういった減配になる可能性が高い銘柄はあるのか、確認してみたいと思います。
全ての米国の高配当株を見ていくのは不可能なので、ダウを構成する銘柄で、予想利回りが概ね3.5%以上のものについて、減配のサインを示しているか見てみました。
その中で、これは怪しそうだなと思った銘柄が一つあったので紹介します。
なお、これはあくまでも私が個人としてそうなる可能性が高いと思っているだけなので、特にその銘柄の購入を検討している方、銘柄を保有している方は、こんなことを考えている人もいるんだな、という参考程度に見ていただければと思います。
気になる銘柄はこれ(IBM)
私が気になったのは、IBMです。
同社は米国会社四季報では予想配当利回り4.78%、ランキングで22位に入っています。
① 2019年から業績が悪化
業績面では、パーソナルコンピューターで1990年代から2000年代にかけて一世を風靡したIT企業ですが、ビジネスモデルの転換を図っている中にあり、2019年以降、業績が徐々に悪化しています。
特に直近の2022年は売上こそ増加したものの、純利益は大きく落ち込んでいます。
② 積極的だった自社株買いを2020年以降は停止
また、キャッシュフロー面を見ると、FCFは2021年から大幅に悪化しています。
自社株買いも積極的に行っていましたが、2019年から大幅に減らし、2020年以降は自社株買いを停止しており、上記の「減配のサイン」の項目に複数当てはまることから、減配リスクが高いのではないかと考えています。
まとめ
ここまで、過去の減配した事例から、減配になりうるサインとして、
1)業績の大幅な悪化
2)1)と関連して、事業から生み出されるフリーキャッシュフローの大幅な減少
3)2)も踏まえた自社株買いの減少、或いは停止
を確認し、このサインに当てはまる将来的に減配になる可能性がある銘柄として、IBMを紹介しました。
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