銘柄分析

【米国株 長期投資】SaaSの先駆けセールスフォース(CRM)を会計士が財務分析

ここでは、米国の株式指数に組み込まれている有名・大型銘柄や、投資家の間で注目を浴びている銘柄について、長期保有に適しているかシリーズで財務分析をしていきます。

今回は、ビジネス向けの顧客関係管理システムを提供するセールスフォース(CRM)です。

この記事を読むことで、

  • セールスフォースは長期保有に適しているか
  • 長期投資において、どのような視点で銘柄を選んだらよいか

が分かるようになります。その他の銘柄についてはこちらから

また、どんな銘柄でポートフォリオを組むべきか悩んでいる方はこちらをご覧ください。

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分析の前提・注意点
  • ここでの分析は、年次報告書に記載されている決算数値や、一般に公表されている情報を用いて、概要の把握を目的として簡単な方法で行います。
  • 四半期の数値は短期の変動やブレが入るため、考慮していません。
  • この記事に記載した内容は、私個人ができる範囲で調べた情報や個人的な意見をまとめたものであり、エンタメ的に楽しんでください。
    こちらの記事をきっかけに興味を持った銘柄があれば、深掘りして調べていただき、より理解が深まれば、書き手として幸いです。
  • 紹介した銘柄について、将来の業績や株価についての言及がある可能性がありますが、その業績や株価を保証するものではありません。また、その銘柄の保有や売買を勧めるものでは無く、売買にあたっては自身の判断で行っていただくようお願いします。

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結論

まず、この銘柄が長期保有に適しているか結論から言うと、

売上の成長性は魅力的だが、営業利益がきちんと出るまでは買い候補からは外れる銘柄

と考えています。

具体的な判断のポイントや理由については、「決算分析」のところでお話します。

セールスフォースの銘柄情報

企業情報や事業内容について、簡単に触れておきます。

企業情報

業種テクノロジー、ソフトウェア
ティッカーCRM
取引市場NYSE(ニューヨーク証券取引所)
設立1999年
上場2004年
本社所在地カリフォルニア州、サンフランシスコ
CEOマーク・ベニオフ
従業員数73,500人

セールスフォースは、米国株式を代表する銘柄で構成される、ダウ工業株指数の一つに2020年からエクソン・モービルと入れ替わる形で選ばれています。

上場が2004年ですから、わずか20年足らずで、米国で最も伝統ある株式指数の構成銘柄に選ばれるところに、米国株式市場のダイナミクス、柔軟性を感じますね。

事業内容

セールスフォースは、オラクル出身のマーク・ベニオフが1999年に創業したソフトウェア会社です。

CRMのティッカーシンボルのとおり、Customer Relationship Management、ビジネス向けにクラウド型の顧客関係管理ソフトウェアを提供しています。

今でこそクラウド型のソフトウェアは、テクノロジー最大手のアマゾンAWSやグーグルのGoogle Cloud、マイクロソフトのAzureなど一般的なソリューションとなっていますが、セールスフォースがサービスを始めた頃はオンプレミス型(顧客のシステムに直接ソフトウェアを搭載する形式)が主流でした。

こうしたクラウド型サービスの流れを作ったのがセールスフォースであり、まさに草分け的な存在と言えます。

① 顧客管理の統合プラットフォーム「Customer 360」を提供

セールスフォースは、マーケティングから見積・契約・請求などのセールス、顧客対応などのメンテナンスサービスに至る、あらゆる顧客にまつわるプロセスについて、AIを活用して統合管理する「Customer 360」プラットフォームを提供しています。

主にアメリカを中心に展開していますが、欧州やアジアにも進出しています。

日本では、以前は旧東京中央郵便局の古い社屋を再開発した丸の内のJPタワーにオフィスを構えていましたが、社名変更と同時に2021年から日本生命丸の内ガーデンタワーに移転したようですね。

② 顧客管理ソフトウェアでは世界トップシェア

マーケットシェアは、情報源によっては2位以下の順番が異なる場合もあるのですが、いずれもセールスフォースは断トツの一位です。年々、他社のシェアを奪っていることが分かりますね。

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銘柄の決算分析

ここからはセールスフォースの過去の決算数値を見ながら分析していきます。

先に分析のポイントを整理しておきます。

分析のポイント

5~10年の長期的なスパンでの保有を考えた場合、企業の事業が安定的に成長していくとともに、強固な財務体質や事業を拡大するためのキャッシュフローを生み出す構造を持っている必要があります。

このような観点を踏まえると、長期投資を検討する際、決算数値が以下のポイントをクリアしているか確認する必要があると考えています。

長期投資で見るべき決算のポイント
  1. 事業の成長性
    事業が毎期着実に成長しているか。例えば、景気サイクル等のマクロ環境の影響を受けて大きく売り上げが落ちていないか。
  2. 収益の安定性
    収益が安定的に発生しているか。例えば、売上の成長以上に売上コストや営業費等が増加し、最終利益が出ないような構造になっていないか。
  3. 財務・キャッシュ・フローの健全性
    ・借入が業界平均などと比べて極端に多くないか。
    ・営業活動から現金流入が生じ、事業への成長投資、配当や
     自社株買いなどの株主還元に割り当てられているか
    (本業から現金流入が無いのに、配当を支払うなど、キャッシュ
     フローの健全性を損ねていないか)

この3つのポイントから分析していきましょう。

事業の成長性

ここでは、過去の売上やEPS、株価の推移から、今後の成長性を分析していきます。

※ことわりが無い限り、これ以降の数値データは各社の10-Kの情報を使用しています。

① 売上は10年間で約22倍に急成長

売上は放物線を描く形で大きく増加しており、前年比20%以上の成長を過去10年以上続けています(2012年は22億ドル、2022年には約12倍の265億ドルに増加)。

買収とオーガニック成長の相乗効果が大きいと思いますが、この規模でハイパーグロース株のような成長率を長期にわたって維持しているのは圧巻ですね。

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② 純利益は増加しているものの、上場株の保有益の寄与が大きい

純利益は2012年の△12百万ドルから2017年頃に黒字化し、2022年は14億ドルを計上しました(EPSは2012年は△0.02ドル、2022年は1.48ドル)。

ただし、セールスフォースの場合、純利益のほとんどは戦略目的で保有している上場株の保有益のため、本業の収益力を確認するには、この影響を排除して見る必要があります。

その場合、簡易的には営業利益(投資など本業に関連しない事業の損益を加算する前の利益)を見る方法があります。

下の2つの図は、上が営業利益と当期純利益の利益ベースの推移を、下が1株当たり利益に換算したベースの推移を比較したもので、いずれも営業利益ベースで見た場合、売上ほど成長していないことが分かると思います。

これは、規模の拡大を優先した研究開発費やマーケティング費用などの営業コストが嵩んでいることが原因です。

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③ 過去10年間でS&P500を上回っているが、最高値からは大きく下落

2021年後半にかけての金融緩和期にあっては、他のグロース株と同様に成長期待を受けて最高値は2013年から7倍近くまで上昇しましたが、FRBが金融引き締めに転換して以降は、最高値の半値以下まで下落しました。

直近10年間でのトータルのパフォーマンスは約+250%で、S&P500の+150%を上回っています。

(SBI証券の株価情報より。10年前を100とした場合の株価推移。2023年2月17日時点)

④ PERによる割高・割安感の評価は困難

一時期に比べればかなり下落しているため、値ごろ感があるかも知れませんが、同社への投資を検討する際に困るのが、黒字化したのが最近でEPSが未だ低い水準にあり、PERといった代表的な株価の割高・割安感を測る指標が意味をなさないことです。

(2022年10月末時点での直近12か月EPSに基づくPERは約600倍。。。)

こういった点においては、ディフェンシブな銘柄の多いダウ銘柄の中にあって、やはり成長性で評価されるグロース株(利益が出ていない点では、むしろハイパーグロースに近い)といって良さそうです。

i. 利益が確認できるまでは様子見

現時点での株価の割安感は評価できませんが、個人的には、利益が出ていないうちは投資リスクが高いと考えています。

仮にその後株価が上昇してしまって投資機会を逃したとしても、例えば2四半期連続で営業利益が今の水準よりもきちんと出るなど、ある程度利益が見込める状態にならない限り買わないですね。

ii. 成長スピードや規模で評価する指標もある

また、ハイパーグロース株にはあまり手を出さないので詳しくないのですが、こうした株は成長スピードや規模を重視して、PSR(株価売上高倍率)や40%ルール(売上高成長率+営業利益率の合計が40%を上回っていれば買い)で評価することがあるようです。

気になる方は過去の水準との比較や、他の候補になっているグロース重視の銘柄との比較で見てみると良いかも知れません。

収益の安定性

ここでは、以下の3つの収益指標を見ていきます。

  • 粗利益率:(売上-売上原価)÷売上
  • 営業利益率:営業利益(売上利益 ー 販管費)÷ 売上
  • 売上純利益率:当期純利益 ÷ 売上

これらはいずれも、売上からどの程度の割合の利益を生み出せているかを測る指標で、高いほど経営効率が高いこと、つまり効率よく利益を出していることを示します。

ソフトウェア企業だけあって粗利益は非常に高く、75%付近を推移しています。

① 研究開発費、マーケティング費用が利益を圧迫

一方で、営業利益率が一ケタ台のパーセンテージに留まっており、これが当期純利益やEPSが低位で推移している原因です。

オラクルやアドビなど、他のソフトウェア会社は営業利益率は概ね30%を超える水準なので、この比率は極めて低いといえます。

これは、売上成長を優先して研究開発費やマーケティング費用をかけているためと思われますが、営業コスト増は脇に置いて走り続けるか、利益を生み出すためにコストカットに動くかは、まさに経営判断を問われるところです。

ただ、この営業利益が出ない状態が上場以来ずっと続いているわけですから、当初期待していたものの、痺れを切らして離れていく投資家も多いのではないでしょうか。

② 10%の人員削減などコストカットに着手

セールスフォースの株主には有名なアクティビストファンドが名を連ねており、こうした状況に対する圧力を受けたこともあってか、2023年1月に従業員の約10%を解雇し、いくつかのオフィスを閉鎖することがメディアで報じられました。

3月1日の2023第4四半期決算カンファレンスコールで、こうしたコストカットなどを踏まえた来期の見通しについてどのような説明があるのか、注目ですね。

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財務・キャッシュフローの健全性

ここでは、負債を中心とした財務面と、本業に関わる資金流入・流出のキャッシュフロー面の健全性を確認します。

① 財務面

2022年1月末時点での長期借入金は105億ドルであり、純資産581億ドルと比較して大きい水準ではありません。

2022年の当期純利益は14億ドル、営業キャッシュ・フローは60億ドルを計上しており、これらを全て返済に充当すると仮定した単純計算で2年程度で返済可能であることから、現時点では財務的な問題は無いといえます。

② キャッシュ・フロー面

下の図は、各年で本業からの資金流入を示す営業キャッシュ・フローを左側に、その使途として事業成長に必要な資本的支出や株主への還元である配当金、自社株買い(一株当たり純利益の増加で株主利益に貢献)の資金流出を右側に並べたグラフです。

資本的支出が営業キャッシュ・フローを上回っている年はM&Aを行っており、これらは借入で賄われています。

また、セールスフォースはこれまで成長投資を優先してきたためか、これまで配当支払い、自社株買いといった株主還元は行っていませんでしたが、昨年100億ドル規模の自社株買いを発表しました。

先述した従業員の解雇なども踏まえると、徐々に株主重視の経営に移りつつあるのかも知れませんね。

まとめ

ここまで、セールスフォースの成長性・収益性・健全性について見てきました。

まとめると、売上は急成長しており今後も期待できるが、営業利益の改善が見られない限りはリスクが高いため、個人的にはまだ買い対象にはならない銘柄であるといえます。

なお、下の記事で株式ポートフォリオの作り方を紹介していますが、この中の「投機銘柄」として、ポートフォリオの一定割合の範囲でチャレンジするのはありかも知れません。

●どんな銘柄でポートフォリオを組むべきか悩んでいる方はこちら

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※この記事に記載した内容はブログ運営者の個人的な意見やアイディアを述べたものであり、専門的なアドバイスを示すものではありません。特定の銘柄への投資を推奨するものではなく、投資の判断・実行は自己責任でお願いします。