米国の著名投資家の一人であるハワード・マークスが、2022年12月に公表したメモの中で、これまでの金利が低下し続ける時代が終わった可能性と、今後のマクロ・投資環境の変化について展望を示しました。
そこで、この記事では、ハワード・マークスのメモ「Sea Change(急激な潮目の変化)」を踏まえて、
今後、米国株はどのような戦略で長期投資するべきか
について、私の解釈も交えながら、ハワード・マークスの考えを紹介します。
米国株投資家にとって、2023年は非常に大事な年になりますので、まだ準備ができていない方は、これまでの投資環境と一体何が変わるのか、是非彼の考えを知って、今後の投資戦略に役立ててもらえればありがたいです。
自己紹介
ブログ運営者のYYです。記事をご覧いただきありがとうございます。
米国個別株やインデックスの長期投資を中心に運用しています。会計士の知識を生かした個別株の銘柄分析や、自身の失敗を踏まえた長期投資での気づなど、役立つ情報をブログにまとめていますので、よろしければ他の記事もご覧になってください。
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ハワード・マークスって誰?
ハワード・マークスを知らない方もいらっしゃるかも知れませんので、念のため。
世界最大級の運用会社の創業者兼会長
彼は世界最大規模の投資運用会社オークツリー・キャピタルの創業者兼会長であり、長期投資家のバイブルである『投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識』の著者です。
あのウォーレン・バフェットが、「極めて稀に見る、実益のある本」と認め、本書を大量購入し、彼が会長を務めるバークシャー・ハザウェイの株主総会で配布したエピソードはあまりにも有名です。
『投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識』
他には見られない分析・哲学
ハワード・マークスは、「経済環境の予測に意味は無い(誰も正確に当てられる者はいない)、それよりも投資先の分析に時間を割くべき」、「マーケットは振り子のように、高過ぎる地点と低過ぎる地点を行き来する」といったように、特に長期の目線で、ハッとさせられる分析や投資哲学を、独特の言い回しで上記の書籍やメディアを通じて発信しています。
まだ書籍を読んだことが無い方は、是非一度手に取ってみることをお勧めします。
最近のメディア出演はこちら
【本題に入る前に】金利が実体経済に与える影響
記事のテーマにもある通り、ハワード・マークスは、「金利」を投資の世界を動かす最も重要な指標として挙げています。
まず、金利が経済・金融環境に与える影響を整理してからの方が今回の話が入りやすいため、先に説明します。
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金利低下は、経済・金融にとっての「空港の動く歩道」
ハワード・マークスは、金利低下を実体経済にとっての「空港の動く歩道」に例えています。
空港の動く歩道は、止まって乗れば脇を歩いている人とそれほどスピードは変わりません。でも、動く歩道の上を歩くと倍ぐらいのスピードになりますよね。
つまり、
金利の低下という装置に経済が乗ると、人々の消費行動や経済活動が、普通の状態よりさらに加速する
ということです。
なんとなくイメージは湧きますが、金利低下がどうやってその加速効果をもたらすのか、具体的に、株式に影響する経済面と金融面で分けて見てみましょう。
① 金利低下は経済成長を加速させる
i. 借入コストの低下→消費・投資の活発化
まず、金利が低下すると、金を借りる際に支払う金利が安くなります。
そのため、消費者であれば、クレジットカードで買い物をしたり、家を買う際の住宅ローンなどの借入金利が安くなり、企業も同様に、事業の拡大に向けた設備投資をする際の借入金利が安くなるため、世の中の消費・投資が活発化します。
ii. 消費・投資の活発化→経済の成長
また、経済成長はその国の経済規模を示すGDP(国民総生産)の伸び率で示され、GDPは、
民間消費+民間投資(≒企業の設備投資)+純輸出(海外への輸出-輸入)+政府支出
で示されます(以下のとおり、米国ではGDPの約8割が民間消費と民間投資)。
まとめると、金利が低下すると民間消費と民間投資が刺激され、GDPが増加し、経済成長に繋がるというわけです。
② 金利低下は「富の効果」ももたらす
また、金利低下は、個人が保有している株式や債券、不動産などの資産価格を上昇させ、個人消費をさらに促す「富の効果」をもたらします。
理論的には、金融資産は「将来キャッシュフローの割引現在価値」で評価され、この将来キャッシュフローを割り引く金利が低下することで資産価格を押し上げるのですが、ここでは詳細は割愛します。
株式も「金利と株価はシーソーの関係にある」と言われるとおり、金利と資産価格が反対に動くと理解していただければ問題ありません。
米国金利のこれまでの推移
続いて、ハワード・マークスは2021年までとそれ以降の変化に着目しています。
あらためて、米国金利を代表する10年国債の利回りのこれまでの推移を見てみましょう。
米国金利は2022年で転換点を迎えた
金利は1982年頃から一貫して低下した後、2022年頃から反転し、2023年1月末現在まで上昇を続けています。2022年頃が金利の転換点とも言えそうです。
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【これまで】投資の追い風が吹いていた過去40年
ハワード・マークスは、こういった経済、金融面で加速的な効果をもたらす金利低下が起きた1980年代からの40年間のうち、2009年の世界金融危機から2020年のコロナによるパンデミックまでの期間において、最もこの効果が表れたと述べています。
- 低金利と膨大な流動性が経済を活性化させ、市場の爆発的な上昇を引き起こした
- 経済成長と金利コストの低下で、企業収益が増加した
- S&P500は2009年3月に667$の安値をつけた後、10年以上にわたり上昇し、2020年2月には3,386$の高値をつけ、年率16%のリターンを達成した
- こうした市場の強さが投資家のリスク回避姿勢を麻痺させ、投資家の間ではFOMO(fear of missing out:乗り遅れの恐怖)が蔓延した
- (過剰な流動性で)企業は簡単に、低金利で借りられるようになった
- 安全資産の利回りは低く、投資家はよりリスクの高い資産を買うようになった
補足してまとめると、
- 低金利で国債などの魅力が薄まった
- 金融緩和で膨大なマネーがリスク資産(例:ハイパー・グロース株、仮想通貨)に流れ込んだ
- 相対的に、リスク資産の価格が高騰した
というところでしょう。
確かに、2021年までのS&P500の上昇は、コロナでの落ち込みが嘘のように凄まじいものでした。
【現在】今までとは景色が大きく変化
ところが、こうした過剰なマネーで旺盛になった需要に対し、コロナ禍のサプライチェーン問題によるモノやサービスの供給が追い付かず、徐々にインフレが始まりました。
さらに、こうした事実を米中央銀行(FED)が「一時的」と判断したことで、インフレが更に悪化、FEDは利上げと金融引締めに舵を切らざるを得なくなりました。
ここまでは、皆さんもご存じのとおりです。
こうした、1970年代以降長らく経験していなかったインフレと急激な利上げの影響を、ハワード・マークスはこうまとめています。
- 金利の上昇が要求リターンの上昇をもたらしたため、金利が低い時代は適正と思われた株価が、金利上昇に見合った低いPEレシオに下落した
- 同時に、金利の大幅な上昇は債券価格にも下落効果をもたらした
- 株価と債券価格の下落はFOMOを打ち消し、代わって損失の恐怖を引き起こした
- 市場の下落は勢いを増し、2020年、2021年に最も好調だったもの(ハイテク、ソフトウェア、SPAC、暗号通貨)が最も不調となり、心理がさらに冷え込んだ
- 外生的な事象は、特に厳しい時代には市場のムードを低下させる効果があるが、2022年最大の外生的事象はロシアのウクライナ侵攻だった。
これにより穀物や石油・ガスの供給が減少し、インフレ圧力が強まった - 金融引締めは景気減速を意図したものであるため、FRBによるソフトランディング達成が難しく、景気後退が発生する可能性が高いことに投資家は注目した
- 景気後退が収益に与える影響も予想されたため、投資家心理は冷え込んだ。こうして2022年1~9月のS&P500指数は、前世紀最大の通年下落に匹敵する下げ幅を記録(現在はかなり回復)
- また、景気後退が予想されたことで、債務不履行が増加する恐れが高まった
- 新規の証券発行は難しくなった
まとめると、
- インフレを抑えるための金利上昇によって株価・債券の同時安が発生
- そこに、ウクライナ侵攻やロックダウンなどの不確実な事象が発生し、さらなるインフレや金利上昇を誘発
- 投資家心理が冷え込み、市場は極めて弱気、大きく下げた
というところですね。
これまでと現在の対比(おさらい)
ここで、これまでと現在の状況を対比で、おさらいする意味でちょうど良いので載せておきます。
項目 | 2009年から2021年 | 現在 |
---|---|---|
FRBの行動 | 極めて刺激的 | 引き締め途上 |
インフレ | 停止 | 40年来の高さ |
経済予測 | ポジティブ | 景気後退の懸念 |
(経済的な)痛みの可能性 | 最小限 | 上昇中 |
ムード | 楽観的 | 慎重 |
買い手 | 積極的 | 及び腰 |
金融資産の保有者 | 安心した状態 | 先行きが不透明 |
主な懸念 | 投資機会の乗り遅れ恐怖 | 投資損失 |
リスク回避姿勢 | 見られない | 高まりつつある |
信用 | 広く開かれている | 限定的 |
資金調達 | 十分に機会がある | 機会が乏しい |
金利 | 過去最低 | より正常な水準 |
イールドスプレッド | ほどほど | 正常 |
期待リターン | 過去最低の水準 | 比較的高い |
これまでのバラ色の経済環境や、投資家(個人・機関を問わず)の積極的な姿勢は、今は180度変わっている、ということです。
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【今後】経済環境・投資環境の見通し
では、この現状認識を踏まえて、ハワード・マークスが今後の経済環境、投資環境をどのように捉えているのか、以下の観点でまとめてみました。
- インフレ
- FRBの動向
- 経済環境
- 投資環境
特に、彼のFRBの動向に関する予測は必見です。総じて、
FRBが景気刺激的な姿勢を見せるにはまだ早く、信頼回復や将来の下げ幅を持たせるためにも、そう簡単に金利は引き下げない
印象を持っているようです。
インフレ
- 今日のインフレの根本的な原因は、救済で膨れ上がった貯蓄が消費され、供給が需要に追いつくにつれて、おそらく和らいでいく
- この点では最近のインフレ指標は心強いが、労働市場は依然として非常にタイトであり、賃金は上昇し、経済は力強く成長している。
- グローバリゼーションは減速あるいは反転している。この傾向が続けば、大きなデフレの影響力を失うことになる。
FRBの動向
- インフレに対する勝利を宣言する前に、FRBはインフレ率が2%目標付近に落ち着いただけでなく、インフレ心理が消滅したことを確信する必要がある。
そのため、FRBはおそらくプラスの実質FFレート(2022年12月現在はマイナス2.2%)を見たいと思うだろう。 - したがって、FRBは利上げペースを緩めるようだが、すぐに景気刺激策に戻ることはなさそうだ
- FRBは信用を維持しなければならない(長い間インフレは「一過性」だと主張してきたため、信用を取り戻す必要)。制限的な政策から、すぐに刺激的な政策に転じることで、不安定のように見せることはできない
- FRBは、債券購入により4兆ドルから9兆ドル近くに膨れ上がったバランスシートをどうするかという問題に直面している。保有する債券の満期を迎えてロールオフさせれば(あるいは可能性はやや低いが売却すれば)、経済から大量の流動性を引き出して成長を抑制することになる。→いわゆる「QT」の問題
- 恒常的に景気刺激策をとるより、「中立金利」(暑くもなく寒くもないと定義される)の維持を望むと考えるかもしれない(直近では、この金利は2.5%)
- 私たちは自由市場が最良と信じているが、10年以上にわたり、マネーの自由市場は存在しなかった。FRB は金利コントロールやモーゲージ債の保有にあまり積極的にならず、自らの役割を減らすことを好むかもしれない。
- FRB が長期的に金利を刺激し続けることにはリスクがあるに違いない。過去2年間のインフレは、パンデミックに関連する単発の事象に大きく起因しているが、景気刺激策によってインフレが発生する可能性を、我々は直近で見てきた。
- FRBは、将来、景気刺激策が必要になったときに、金利を引き下げる余地があるほど、通常の金利が高いことを望んでいるだろう。
(2023年1月末の補足情報)
「FRBの動向」の1点目で挙げた実質FFレートは、直近2023年1月のFOMCでプラスに転じたので*、ここが何らかの節目になる可能性は高いと思います。
(「野生の経済学」で有名なアナリストの岡崎氏がこの点に言及
→Youtubeはこちら)
* 実質FFレート 0.1~0.35% =
2023年1月FOMCのFFレート4.5~4.75%
ー 2022年12月のコアPCEデフレータ4.4%
経済環境
- エコノミストや投資家は、今後12〜18か月の間に景気後退が発生することを当然のように考えている
- この景気後退は、企業収益と投資家心理の悪化と同時に起こる可能性が高い
- クレジット市場における新規融資は、近年のようにすぐに緩和的になるようには見えない
- 債務のデフォルト率がどこまで上昇し、いつまで続くか予測できない(1978年から2009年までのハイイールド債のデフォルト率平均が3.6%だったのに対し、以降2019年までの10年間は2.1%と、異常に低い水準だった)
- 金利が今後さらに20%低下することは無いと確信を持っている(彼なりのジョーク?)
投資環境
- 信用資産から確実なリターンが得られる可能性があり、目標リターンを達成するためにリスクが高い投資に大きく頼る必要が無くなった
- 貸し手やバーゲンハンターは、この変化した環境で2009年から2021年の間よりもはるかに良い見通しに直面している
- より重要な点として、この環境認識が正しければ、これまで最善だった投資戦略が今後はアウトパフォームしない可能性がある
個人的な2022年の学びと今後の投資戦略
最後に、ハワード・マークスの考えを参考にしつつ、私の2022年の投資の振り返りと今後の戦略を参考までに紹介します。
2022年の自分自身の投資を振り返ると・・・
2022年の株式市場の下げ相場の渦中にいた身としては、精神的に結構しんどい一年でした。
ハイグロは2021年からの半値は当たり前、伝統的な銘柄でも決算が悪いと20%安など、長期保有では我慢が必要だとしても、気が気でない方も多かったのではないでしょうか。
私はそこで、
- 投資のメインであり、主にリタイア後に向けて毎月積立投資しているS&P500インデックスの投信は、(長期的には株価は上昇すると考え)、積立額も変更せず毎月積立を継続する
- 個別株については、金利が今後もどんどん上がっていくとグロース系はやられやすいため、ポジションを軽くする
- その一方で、自分がもともと注目していた銘柄は、売られ過ぎの状態になったら少しずつ買っていく
ことで、数十万単位の損切りは出てしまい痛かったものの、何とか厳しいマーケットを乗り越えられたかなと感じています。
また、こうした経験はその渦中にいないと身につかないものでしたし、市場から撤退しないことの大切さが良く分かった一年でした。
今後の戦略
ハワード・マークスは、この高金利であれば、債券でも十分なリターンが得られると見ていますね。
ただ、長期で見た場合、債券よりも株式の方がリスク対比リターンは優れていますし、私は今後もおそらく10年以上は投資を続けていく予定なので、債券や債券ETFなどを自分のポートフォリオに組み込むことは考えていません。
ただし、ハワード・マークスが言うように、金利がこれまでのゼロに近い水準から一段上がった状態が今後も続く可能性が高いと考えているため、低金利の恩恵を受けるハイパーグロース株や高PER株などよりも、物を作って利益を出し、配当や自社株買い等で株主に還元しているオールドエコノミー系の銘柄を物色しています。
こういった銘柄が割安になったタイミングを狙いながら、ポートフォリオの中心に据えていこうかなと考えています。
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