米国株投資を始めたばかりだと、経済に関するニュースや景気動向など、日々色々な情報が目まぐるしく流れ、どれを参考に投資判断をしたらよいか分からない、ということは無いでしょうか。
また、最近ではCPI(消費者物価指数)や企業のガイダンス修正など、投資家心理に大きな影響を与えるニュースが出ると、株価が大きく動きます。投資に慣れてきた方でもそのような事態に出くわすと、つい慌てて株式を売却してしまったり、逃すまいと高値掴みしてしまい、後で後悔してしまうことがあると思います。
今回はそのような方向けに、経済予測を全く信じないことでも有名な、世界最大級の投資運用会社オークツリー・キャピタルの創業者兼共同経営者のハワード・マークスが説いている、投資でやってはいけない5つの行動について紹介します。
なお、こちらの内容は、2022年11月に公表されたハワード・マークスのメモ「What Really Matters?(原文は英語)」を題材としています。
■ハワード・マークスについて知りたい方はこちら↓
この記事を見ることで、
- 長期投資で気にすべきでない情報が分かり、SNSでの雑音に惑わされたり、無駄な情報に時間を取られなくなる
- 長期投資で注力すべきこと(結論:投資先の分析)が分かる
ようになります。
早速、無視すべき5つのものから紹介し、最後に何に注力すべきかを見ていきましょう。
無視すべき5つのもの
ハワード・マークスは、投資で無視すべき情報として、以下の5つを挙げています。
言い換えると、「長期的な視点で見たら重要ではないのに気をとられてしまうこと」で、特に兼業で投資している人にとっては、無駄な情報に時間を使っているかもしれないという意味で、重要な話です。
(1) 短期のイベント
一つ目が短期のイベントで、例として、マクロの景気指標や統計、目先の株価が挙げられています。
今まさにアメリカでも、CPIや雇用関係の指標が投資家の間で議論になっていますよね。
なぜ気にする必要がないのでしょうか。
① 短期の事象は正確に予測できない
ハワードマークスが2021年6月にロンドンで行った講演でも、インフレやリセッションに関する質問が後を絶たず、その際に彼はこう説明しています。
- ほとんどの投資家はこういった短期の事象の予測は得意ではない
- したがって、これらに関する(自分や他人の)意見をあまり信用しない方がよい
- また、これらの意見に反応してポートフォリオを大きく変更することはまずない
- 彼らが行う変更は、一貫して正しいとは限らない
- よって、これらの事象は重要ではない
要するに、短期の事象を予測することはできないし、予測しても(それが実際に起きた後での行動と比べて)投資行動が変わるわけではないのだから、気にするべきではないということです。
② 目先の株価はどのイベントが反映されているのか分からない
また、目先の株価についても、どのイベントが反映されているか把握するのは難しいと言っています。
i. そもそも株価はイベントの予測に対する結果の乖離で動く
彼によれば、一次的思考を持つ人(単純で底が浅い人)は、目先の株価の変動はイベントで決まると考えます。
ですが、株価はイベントだけではなく、そのイベントに対する投資家の反応、つまり起きたイベントが投資家の期待からどれだけ乖離しているかによって決まります(著書では、この考え方を利用して、指標が思ったよりも悪いことによるパニック売りを利用して安値で買うのが「二次的思考」を持つ人と表現)。
例えば、企業の四半期決算が発表され増収増益だったにも関わらず、アナリストの業績予想に届かなかったため株価が下落することが良くありますが、まさに期待との乖離が株価に反映されることが分かります。
そうすると、株価の変動を予測するには、あるイベントについて投資家やアナリスト予想から実績がどう乖離するかを見極めることが必要になります。これは内部情報を持っている企業の関係者などインサイダーでない限り、不可能に近いですね。
ii. 短期の様々なイベントのうち、どの予測が株価に織り込まれているのか分からない
また、どのイベントの予想が株価に織り込まれているかは誰にも分からないとも言っています。
確かに、米国の場合、インフレ率や雇用統計、景況感指数など、株価に影響を与える重要な統計・景況指標がひと月の間にいくつも発表されますが、どれがどの程度株価に反映されているのか分かりません。
この①、②を踏まえると、「短期のイベントや目先の株価は当てにならないので気にしない。長期目線では、その指標から見える景気・経済の動きが企業の将来の事業にどんな影響があるかに着目する」ということだと理解しています。
(2) 株式の「トレード」
2点目は、株式を「トレードする行為」です。
ここでは、ある例え話と調査について触れています。
① 100万円のサーモン
友人であるサムとジョーがサーモンについて話している場面が出てきます。ちょっと見てみましょう。
とってもいいサーモンを買ったんだよねー
いいね、サーモンは大好きだよ。欲しいんだけど、いくら?
1パック100万円
え?なんでそんなに高いの!?
なんせ世界で最も高級なサーモンだから。天然モノで、一つ一つ丁寧に包装されてるんだよ。釣り針ではなく網で捕まえて、手作業で骨を抜き、最高級の塩に漬けてあるし。ラベルも有名なアーティストが描いてるんだから、むしろ100万円でお買い得品だ。
でもそんな100万円のサーモンなんて誰が食べるの?
ああ、このサーモンはトレード用。食べるためじゃないよ
いかがでしょうか。ちょっとピンとこない人も多いかもしれませんね。
本来、サーモンは食べるためのものでその価値(値段)は美味しさで決まるものなのに、サムは珍しさや希少性による取引価値しか見ていません。
つまり、ここで言いたいのは、株式に言い換えれば、本来はその企業の事業内容を理解して投資すべきなのに、株価が上がるか下がるかで取引している人が多いということです。
手っ取り早く儲けたいという気持ちがあると(特に、自分の保有株が落ちている中上昇している株を見ると)、どうしてもそんな目線で買いがちですね。
長期投資では、こういった取引の視点ではなく、オーナーとして経営参加する気持ちで、強い事業で利益を出す企業に投資すべきということです。
② 大抵の短期トレードはS&P500に勝てない
もう一つ興味深いのがDALBARという研究機関が行った2012年の投資に関する市場調査で、以下の事実が判明しました。
- 1992年から2012年にかけてS&P500が生み出したリターンよりも、投資家が受け取る金額は年間3%少なく、一般的な投資家の平均保有期間は6カ月であった。
“Fidelity’s Best Investors Are Dead” The Conservative Income Investor
これは、短期トレードを否定するつもりはありませんが、よほどの相場心理や機関投資家の動きを読むテクニックが無い限り、大抵の投資家が6か月以内といったトレードで利益を得るのがいかに難しいか、よく示していると思います。
(3) 短期の業績
続いて、企業の短期の業績です。
これはシンプルな話なのですが、四半期や1年間の業績では、外部的な要因などでノイズが入るため、企業の価値が正しく評価できないということです。
例えば最近では、コロナの影響による半導体不足で、自動車やスマートフォンの生産が間に合わない事態が起こっています。これらは長期的には企業の競争優位性には影響しなくとも、四半期等の業績は落ち込む場合があります。
また、ここ最近の米国市場の不調で、他企業に投資をしている企業では、株式評価損が業績に影響する場合があります。逆に今後市場が良くなっていく場面では、保有株の評価益によって企業の実力以上に業績が良く見えることになりますから、注意が必要ですね。
(4) ボラティリティ
ボラティリティは統計学で使う専門用語で、ここできちんと説明すると書き切れないため、簡単に紹介するに留めます。
ボラティリティは簡単に言えば「資産から得られるリターンが変動する可能性」で、一般的にボラティリティを小さくするほど、リターンも小さくなる傾向があります。
例えば、株式指数のS&P500はこれまで年平均で約10%上昇していると言われていますが、暴落時などは半値になる可能性もあります。一方で、日本の定期預金の場合、利息はほぼ確約されている(ボラティリティは小さい)ものの、リターンは0%にもなりません。
ただ、このボラティリティは投資期間が長期になるほど、短い投資期間と比べて小さくなる傾向も持っています。
つまり、長期で資産運用を考える場合、株式のボラティリティは気にするほど大きなものでは無いということです。
(5) 頻繁な売買
最後は無視すべきものというより、やってはいけないことです。
これは知っている方もいるかも知れませんが、フィデリティが持つ顧客の証券口座で2003年~2013年の間で最もリターンが良かった口座を調べたところ、保有者が死亡している口座か、休眠口座(転職などにより放置された401Kの口座)だったとのことです。
つまり、一度投資をしたら下手に売買せず放っておく(いわゆるバイ・アンド・ホールド戦略)のが最も高いリターンが期待できるということです。
これはもちろん極端な話ですし、持っている銘柄によってはビジネスに問題が起きていないかなどを確認した方が良い(ジム・クレイマーが勧める「バイ・アンド・ホームワーク」)と個人的には思います。
ただ、あまり銘柄を見ている時間が無い方でも、無理して売買する必要が無いと分かるのは、非常に励みになるのではないでしょうか。
注力すべきこと
それでは、長期投資家は何に時間を注力すべきなのでしょうか。
長期的に利益を出す力を持っている会社を安く買う
ハワード・マークスは、自分のポートフォリオの5年後や10年後、或いはそれ以降のパフォーマンスと投資額に対する最終的な価値こそが大事であり、短期の事象やマクロのトレンドに心を振り回されず、今後数年間の投資先のファンダメンタルの予測について、並外れた洞察を得ることに注力すべきとしています。
具体的には、
- 投資先を分析して、潜在利益を評価する
- 潜在利益と見比べて、魅力的な価格で買える商品を買う
- その企業の潜在利益や価格の魅力が失われない限り、その株を持ち続ける
- これらが失われた場合、或いはより良い投資先が見つかった場合のみ変更する
ことが必要です。
この具体的な内容については詳しく説明されていないため、分かりやすくいうと、「長期的(例えば10年後)に利益を出す力を持っている会社を見つけて、安い値段で買おう」だと私は理解しています。
① どうやって長期的に利益を出す会社を見つけるか
では、どうやって長期的に利益を出す力を持っている会社を見つけるか、ここでは日本における長期投資のパイオニアである、農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)CIOの奥野氏の言葉を借りたいと思います。
■奥野氏やNVICについて知りたい方はこちら↓
奥野氏の著書『投資家の思考法』では、いわゆる長期的に「強い会社」をチェックするポイントとして、以下の3つを挙げています。
- 付加価値:
その企業が提供する財・サービスに顧客にとっての付加価値があるのか、顧客にとって必要なもの、問題解決につながるものか。 - 競争優位性:
圧倒的な競争優位性があるのか、参入障壁と言えるまでに高められているのか。 - 長期潮流:
人口動態のような不可逆的(元に戻りにくい)な長期潮流があるのか。
具体的に当てはまる例として、議論はあるかも知れませんが、私はビザを挙げます。
ビザは信用・決済サービスのシステムを事業者や個人に提供することで、盗難されたり無くすリスクがある現金よりも、利便性が高いキャッシュレス取引で顧客に付加価値を与えています。
また、この業界は利用者が多ければ多いほど利用価値が高まるネットワーク効果があり、新規事業者が参入しづらく、その中でもビザは50%以上のシェアで圧倒的な競争優位性を持っているといえます。
このようなキャッシュレス決済はe-コマース等の非対面取引の増加とともに、対面取引でも紙幣や硬貨などを通じた接触を避ける習慣が今後も続くと思われることから、不可逆的な潮流にあると考えられます。
このような観点で、長期的に利益を出す会社を探す方法もあります。
② どうやって安く買うか
次にどうやって安く買うかですが、これについてはハワード・マークスがポイントを挙げています。
- 投資家の心理がファンダメンタルズよりもはるかに大きく変動し、通常は間違った方向や間違ったタイミングで変動することを理解する。
そのような変動に抵抗する重要性を理解し、逆サイクル、逆張りで利益を得る。 - 投資環境、特に投資家の行動を研究し、サイクルの観点からどこに位置しているかを検討する。
市場がサイクルのどこに位置しているかが、自分に有利か不利かに大きく影響することを理解する。
これは簡単に言えば、マーケットが総悲観になっている状況で買い向かうなど、極端な状況に逆張りの行動を取るべきということです。
私もこの考え方は実際に取り入れていて、以下の指標を総合的に見てマーケットが悲観的になっているか、買いのチャンスを判断しています。
- VIX指数:
一般的によく使われている恐怖指数。30を超えたら買いを検討 - 個別株のRSI(相対力指数):
買われ過ぎ、売られ過ぎを示す指標。銘柄によるが、20を下回ったら買いを検討 - Fear and Greed Index:
CNNが発表しているマーケットの恐怖・貪欲指数。”Extreme Fear”のレンジだったら買い - NAAIM Exposure Index:
機関投資家の積極性を示す指数。低いほど消極的であることを示し、20付近であれば買い
この辺りは実際に自分の監視リストに入っている銘柄と指標の動きをウォッチして、どの指標がより割安な水準の時に効いているか見てみて、使えそうな指標を選択していくのもありだと思います。
まとめ
この記事では、ハワード・マークスのメモを元に、投資で無視すべき5つの事、その代わりに何に注力すべきかをお話しました。
●長期投資も含めた投資手法全般について、もっと体系的に質問しながら学びたい方へ
※無料のオンライン動画セミナーで体験受講が可能です。私も視聴しましたが、特に初心者の方は、投資に対する姿勢を勉強する意味でも見るだけの価値があると思います。動画の中で有料講座の紹介はありますが、強引な勧誘はありません。
※この記事に記載した内容はブログ運営者の個人的な意見やアイディアを述べたものであり、専門的なアドバイスを示すものではありません。特定の銘柄への投資を推奨するものではなく、投資の判断・実行は自己責任でお願いします。