ここでは、株価とは何を表しているのか、これに惑わされずに長期投資を成功させる方法について、このブログではたびたび登場する「日本のウォーレン・バフェット」こと農林中金バリューインベストメンツCIOの奥野氏による著書『投資家の思考法』で、その概念がとても分かりやすくまとめられていたため、解説したいと思います。
2023年1月下旬を迎え、最近は落ち着きを見せつつある米国株市場ですが、インフレやこれに伴うFRBの利上げ、ウクライナ侵攻など様々なマクロイベントで2022年は大きく落ち込む場面もありました。
米国経済の成長を信じて長期投資、積立を続けている方でも、そんな日々の株価に翻弄されて疲れてしまったり、中には狼狽売りしてしまった方も多いのではないでしょうか。
もちろん、自身のリスク許容度を超えるポートフォリオを組んでしまっている場合、売却によるポジションの見直しも時には必要です。
ただ、いずれにしても、こういった短期的な株価の動きに惑わされず、しっかりと長期目線で投資を続けていけるに越したことは無いと思います。
そこで、この記事では
- 株価と利益、企業の事業との関係を理解する
- 短期の株価変動に翻弄されず、逆にその変動を利用してよい銘柄を安く買う
ことができるよう、解説していきます。
私の解釈も交えながらまとめているので、書籍の内容を正確に理解したい方や、『投資家の思考法』に他にどんなことが書かれているか興味がある方は、是非一度、書籍を読んでみてください。
ビジネスと利益、株価の関係
まず最初に、ビジネスと利益、株価の関係を端的に示した図がこちらです。
『投資家の思考法』記載の図を基に作成
(1)株価は利益の影、利益はさらにビジネスの影
ここでは、太陽からビジネスが照らされたその影が利益に、さらに利益が照らされたその影が株価になっています。
つまり、ビジネスの強さが利益につながり、利益が株価につながっていくという意味で、直感的には確かにそうだろうと思う方が多いのですが、この関係をもう少し論理的に説明します。
企業は株式会社という会社形態を採る場合、株主は事業の元手にするために出資を行い、その出資と出資に対するリターン(事業から得られる利益)を受け取る権利を証明する株式を受け取ります。
言い換えれば、株式はその企業に対する株主の所有権を示すものであり、「株式の価格」である株価は、本来はその所有権に基づく、株主に帰属する企業や事業の価値を示します。
企業の価値は、経営を続ける利益の積み重ねによって増えていきますから、株価も増えていくということです。
(2)長期では、ビジネスの強さが利益と株価につながる
長期的には、ビジネスが強ければ利益が積み上がる、利益が積み上がれば株価も利益の積み上がりに応じて上昇していきます。
ビジネスの強さにも様々な定義がありますが、例えばウォーレン・バフェットが言う「ワイド・モート(経済的な堀)」を持つ企業として、彼が会長を務めるバークシャー・ハザウェイのポートフォリオの大半を占めるアップル(AAPL)は、まさにこの関係を示していると思います。
スタイリッシュな見た目と直感的な使いやすさで人気のiPhoneやMacなどは、一度買ったら他の製品に乗り換えられない、熱烈なアップルのファンになってしまう人も多く、まさにワイド・モートを持っていると言えますが、その強さが利益につながり、株価も年々右肩上がりになっていることが分かります。
判断が分かれるところもありますが、個人的には他にワイド・モートを持っている企業として、ビザ(V)やコストコ(COST)などが挙げられます。
独自のブランドや業界内での圧倒的なシェアを持つ会社と言ってもいいかもしれません。
(3)短期では、株価と利益は影のように揺れる
このように、株価はビジネスや利益と連動して、強いビジネスを持つ会社では長期では成長を続けていくものの、株価や利益は短期では外部要因に強く影響を受けます。
奥野氏はこれを、株価と利益は短期ではゆらゆらと動く影のようなもの、と表現しています。
① 人は目に見える分かりやすいものに影響されやすい
長期投資では、先ほどお話したように、企業のビジネスの強さが継続する限りその株式を保有し続けることが前提となります。
ところが、保有している銘柄のビジネスの強さが継続しているか、そもそもビジネスの強さをどうやって測るか一般化されたチェック項目などもありませんし、判断が難しく、分析にも時間がかかります。
② 短期の株価は需給、市場心理で大きく動く
一方で株価というのは日々見えるものです。あの銘柄は上昇したけど自分の銘柄は上昇していないなどの単純な比較もできます。
この点、ビジネスの強さという曖昧な概念と比較して株価は数字で示されるため分かりやすく、かつ意識しなければ常に目に入ってくるため、その動きにどうしても影響されやすくなるんですよね。
i. 短期トレーダーや機関投資家の存在
さらに、長期目線の投資家にとっては悪いことに、市場にはこうした心理を利用しながら利益を出すことを目的に短期で売買を繰り返すトレーダーや、ヘッジファンドなどの機関投資家も多く存在します。
特に、個人投資家とは比べ物にならない資金量を持つ機関投資家が銘柄を売れば簡単に株価が下がる場合もあり、こうした動きに釣られて慌てて確定売りに走るといった投資家心理を利用して利益を出す動きも見られます。
ii. マーケットが一方向にあると、余計動きやすい
2022年は市場全体が弱気目線にありましたから、こういった全体のコンセンサスが一方向にあると、何らかの事象が起きた場合にその動きが極端になりやすいとも言われています。
例えば、ハイテクやシクリカル(小売など)の決算が市場コンセンサスを下回って株価が20%以上下落する、逆にCPIが予想よりも良かったため株式指数は5%以上上昇するといった、ある種異常とも言える現象が起きたのがこの年でした。
iii. 小まとめ
話が若干逸れてしまいましたが、まとめると、株価は数字で示されるため投資家は心理的な影響を受けやすく、その株価は短期では色々な要素で動くということです。
長期投資家は、この短期の株価の動きに惑わされないことが重要です。
③ 利益も、短期ではビジネスの強さを表さないことも
付け加えると、利益も短期ではビジネスの強さを表さない場合もあります。
いくつか例を挙げると、まず一つがコロナによる中国を中心としたロックダウンです。これによって中国の経済活動が停止したことにより、世界的な半導体不足が起こり、例えば自動車メーカーのフォードは2021年4月に業績予想を下方修正しました。
また、こうした企業の生産・販売サイクルに直接的なダメージを与えるものもあれば、材料費や賃金の高騰といったインフレも、利益を圧迫する要因となります。
さらに、こうしたインフレを受けたFRBの利上げによってドル高になった結果、海外展開するアメリカ企業の海外売上は、たとえ販売数が変わらなくても海外通貨がドル対比で安くなる分、ドル換算ベースでの売上は減るため、為替も業績に影響します。
もちろん、価格決定力の強い企業はインフレによるコスト増を顧客への販売価格に転嫁できるため、そういった企業こそが強いビジネスを持っているとも言えますが、いずれにせよ、短期では企業の本来のビジネスの強さとは関係の無い要因が利益を左右すると言えます。
まとめると、利益はビジネスの強さや、逆に変調があればその兆候を見る上で重要なのですが、短期では外部的な要因で変動しやすいため、しっかりと見極めることが重要です。
短期の株価下落は、むしろ買いのチャンス
では、長期投資家はこのような短期での株価の動きにどう対処すればよいのでしょうか。
2つ方法があります。
(1)株価下落を利用して買い増す
もう答えが分かっている方もいらっしゃると思いますが、一つが、短期での株価はこういった不規則で長期目線では合理的ではない動きをするものと理解して、むしろそれを利用して、株価が大きく落ち込んだところで買い増す方法です。
著名投資家のハワード・マークスも、こういった、一次的な株価の動きに捕らわれず、その反応である市場の動きを予測して利用することを「二次的思考」と呼んでおり、長期投資で卓越したパフォーマンスを出したいなら必要なスキルの一つだとしています。
ただし、どこが底かを見極めるのは経験が長い投資家でも難しいことですし、時間分散を意識して底に近いと判断したところで分割買いしていくなど、ある程度割り切って対応する必要があります。
(2)気にせず積立を続ける
もう一つが、そういった株価の動きを気にせず、決まった金額、タイミングでの積立投資をひたすら続ける方法です。
NISA制度を利用して、S&P500などの指数と連動する投資信託、ETFなどで積み立てる方法が日本ではメジャーですが、投資の勉強などにあまり時間を割けない方であれば、こちらの方が時間対比での利益は大きいかも知れません。
まとめ
今回は、農林中金バリューインベストメンツCIOの奥野氏の著書『投資家の思考法』を基に、株価は利益、さらにはビジネスの影であり、短期的には大きく動くが惑わされないこと、むしろ長期目線ではそれを利用することについてまとめました。
このように、長期投資で役に立つ情報を他の記事でもまとめていますので、見ていただければありがたいです。
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